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精神科看護師に向いている人の特徴を調べると、「コミュニケーション能力がある人」「忍耐力がある人」「共感力が高い人」といった言葉が並びます。
でも正直に言うと、精神科に来る前の自分は、それらにほとんど自信がありませんでした。
人と話すのが苦手。患者さんにのめりこみやすい。「精神科なんて自分には無理」という確信に近い感覚があった。
それが結果的に、約12年も精神科・身体合併症病棟で働くことになりました。
この記事では、転職サイトやキャリア情報には載っていない、現場で感じた「向き不向きのリアル」を書きます。「向いているかどうか確認したい」という方の参考になれば、と思って書いています。
「精神科は向いていない」と思っていた自分が、15年続けられた理由
精神科への異動が決まったとき、正直「失敗した」と思っていました。
ICUに1年いて、そのあとに精神科・身体合併症病棟への異動。精神科については、特に知識も関心もなかったし、人と丁寧に関わるような仕事が自分に向いているとも思っていなかった。
でも実際に働いてみたら、異動してすぐに「あれ、意外と悪くないな」という感覚がありました。
ICUは処置が多い。急変があれば一気に動く必要があって、常にどこか焦っていた。自分はその「焦る感覚」がしんどかったんだと、精神科に来てから気づきました。
精神科は、処置が少なく、仕事がゆったりと落ち着いている分、ゆっくりと落ち着いた気持ちで丁寧に患者と話ができました。
「聞く」ことに時間を使える環境が、自分に合っていたんだと思います。話し上手じゃなくても、急かされなければちゃんと関われる。それが向いていないと思っていた精神科で続けられた、一番の理由かもしれません。
精神科での仕事内容そのものについては、精神科病棟のリアルな仕事内容についての記事でも書いていますので、あわせて読んでみてください。
精神科看護師に向いている人の特徴――現場で見えた共通点
一般的によく言われる「精神科向きの人材像」として、コミュニケーション力・忍耐力・共感力といった言葉が並びます。これらは間違いではないと思います。ただ、12年間現場にいて感じたのは、もう少し具体的な「これがあると続けやすい」という要素があるということです。
「聞く力」がある人――話し上手より聞き上手
精神科の患者さんの多くは、話を聞いてほしいという気持ちを持っています。こちらが次々と言葉を返すより、黙って、ちゃんと聞き続けられる方が、むしろ大事な場面が多いです。
私自身、人と話すのは苦手な方です。でも、「聞く」ということは得意でした。というより、処置が少ない分、ひとりの患者さんに時間をかけて向き合えた。ICUでは処置に追われて、患者さんの話を聞く余裕があまりなかった。精神科に来て、その余裕が生まれたことが、自分には合っていました。
話し上手でなくてもいい。むしろ黙って聞ける人の方が、精神科では居場所があると感じています。
変化に気づける人――小さなサインを見逃さない
精神科では、患者さんの状態が数値に出にくいことが多いです。バイタルが安定していても、表情や態度がいつもと違う。そういう違和感を感じるときがあります。
「なんとなく今日はいつもと違う」という感覚を大事にすることが、精神科の看護では重要です。
私がいた身体合併症病棟では、精神症状に加えて身体症状の変化も同時に見ていました。精神状態の揺れが身体症状に影響することもあれば、逆に身体の不調が精神症状として表れることもある。その両方に目を向けながら、「いつもと何かが違う」を察知することが求められていました。
数値を追う看護と、変化を感じる看護。どちらも必要ですが、精神科では後者の比重が大きいです。
「わからないまま」を抱えられる人――正解がない状況に耐える力
精神科の看護には、「これで正しかったのか」という答えがなかなか出ません。
患者さんとの関わり方が合っていたかどうか、あの時ああ言ったのは良かったのか、退院まで関わり続けてきたのに再入院してきたとき何が足りなかったのか。そういう問いが、ずっと残り続けます。
私もそういう経験をたくさんしてきました。今も「考え続けるしかないな」と思うことの連続です。
これが「わからなくて当然」と受け取れる人は、精神科に向いていると思います。反対に、「正解を確認して先に進みたい」という感覚が強い人には、少ししんどいかもしれません。
答えが出ないまま関わり続けること。それが精神科の看護の本質的な部分だと、今は思っています。
体力と安全確保ができる人――精神科の「体力仕事」の側面
精神科は「穏やか」「静か」なイメージがあると思います。実際そういう場面も多いですが、急性期の患者さんへの対応は体力勝負になることがあります。
大声を出して興奮している患者さんの対応、身体的に制止が必要な場面。こういうときに、男性看護師だからという理由で、自然と「前に出る」役割になっていました。
怖いと思ったことは、正直あります。でも、それが役割だから前に立った。その緊張感を「やりがい」と感じるかどうかは、人によって違うと思います。
精神科看護師に向いていない人の特徴――「向いていない=ダメ」ではない
「向いていない」という言葉を使いますが、それはその人がダメということではなく、「消耗しやすい組み合わせ」の話です。環境や準備次第で、変わることもあります。
白黒はっきりさせたい人――曖昧さがストレスになるタイプ
「この治療はどれくらいで効くか」「この対応は正しかったか」——精神科では、こういった問いにはっきりした答えが出ないことが多いです。
患者さんの状態は一進一退で、退院してもまた入院してくることがある。「今回の入院はうまくいった」という手応えを感じにくいことも珍しくありません。
明確な結果が見えないと不安になるタイプの方には、精神科の「曖昧さ」がストレスの種になりやすいです。それが良い悪いではなく、向き不向きとして素直に受け取ってほしいと思います。
感情の境界線を引くのが苦手な人――のめりこみすぎるリスク
精神科では、患者さんとの距離感が大事です。患者さんの話に共感しすぎて引きずられると、自分が消耗します。「できないことはできない」と伝える、ある程度は聞き流す、という線引きが必要な場面があります。
私は、この線引きが苦手でした。どうしても患者さんの言う通りの要望をかなえようと動いてしまうところがあって、他のスタッフから「やりすぎ」と言われたことがあります。
患者さんにせかされると、自分も不必要に焦ってしまう。今でも適切に対処できない場面があります。「克服した」とは書けないし、「解決した」とも思っていません。
ただ、このことを自覚しているかどうかは、大きな違いだと思います。苦手を自覚したうえで、周りのスタッフと協力しながら対処する、ということが、今の自分なりのやり方です。
身体的なスキルだけで看護をしたい人――精神科は「手技」が少ない
採血や点滴、各種処置といった手技の機会は、一般的な精神科病棟では少ないです。急性期の外科・内科と比べたら、処置の数は明らかに少なく、楽なのは確かです。
「手技を磨き続けたい」「スキルアップを実感したい」という感覚が強い方には、一般的な精神科病棟では物足りなさを感じやすいかもしれません。
ただし、私がいた精神科・身体合併症病棟は例外で、外科・内科の患者さんの治療も担当していました。手術後の管理、化学療法、妊産婦の対応もありました。「精神科でも身体管理をやりたい」という方には、身体合併症病棟はひとつの選択肢です。精神科にも、いろいろな種類があります。
精神科看護のやりがいと、正直な難しさ
やりがい――患者の回復を時間をかけて見届けられること
急性期の病棟では、患者さんが回復したら早い段階で退院します。でも精神科は、入院が長期になることも多い。その分、一人の患者さんと長く関われます。
1年以上入院していた患者さんが退院したときは、良かったと思いました。それ以上でも以下でもないですが、積み重ねてきた時間が報われる感覚は、急性期にはない精神科ならではのやりがいだと思います。
患者さんの回復のペースに合わせながら、丁寧に関わり続けることが好きな方には、向いている環境だと感じます。
難しさ――答えが出ないまま関わり続けること
再入院の患者さんを見たとき、正直に言うと「またか!」と思うことがあります。
調子が悪くなって戻ってきた患者さんを前にすると、また同じ大変な思いをするのかという気持ちが頭をよぎります。「たいへんやな」と思いながら、また関わり始める。それが何度も続く。
これを「また会えた」「懐かしい」と感じられる人は、精神科に深く向いているのだと思います。私はそこまで達観していなくて、しんどいものはしんどいと感じながら、それでも続けてきました。
答えが出ない状況を「解決した」とは言えないけれど、「考え続けるしかないな」と思いながら続けること。それが、精神科での12年だったと思います。
精神科+身体合併症という領域のリアル
私がいた病棟は、精神科の中でも特殊な「身体合併症病棟」でした。精神疾患を抱えた患者さんが、身体的な治療を必要としている場合に入院する病棟です。
精神疾患による症状で、治療の必要性が理解できない。「なんでこんなことをされるのか」という反応の中で、身体管理を進めていく場面が多かったです。精神疾患による精神症状により治療や看護ができない場面が多かった、というのが正直なところです。
ただ、外科・内科など幅広い内容の患者・看護を行えたことは、一般的な精神科病棟とは違う経験でした。
社会の中でさまざまな場所で生きてきた人たち、いろいろな背景を持つ患者さんとの関わりは、他の病棟では得られないものだったと思っています。
精神科への転職を考えている人へ――経験者として伝えたいこと
「向いているかどうか」は働いてみないとわからない
精神科に来る前の私は、「自分には向いていない」と思っていました。それが覆ったのは、実際に働いてみたからです。
「向いているかどうか」を事前に完全に判断できる方法はないと思います。性格診断やリスト記事で「自分には当てはまらない」と感じても、実際に働いてみたら意外と続けられることはある。
過去の自分に言いたいのは、「もっと肩を抜いて楽しく働いてな」ということです。向いていないかもしれないという不安を抱えながら働いていた時期が、もったいなかったと今は思います。
転職前に確認しておきたいこと
精神科といっても、急性期病棟・慢性期病棟・身体合併症病棟・老年期精神科など、仕事の内容はかなり違います。転職前に「どの種類の病棟か」を確認することは重要です。
可能なら病棟見学をして、雰囲気や患者さんの状態、スタッフの動き方を自分の目で確認するのが一番です。
転職先の病棟の特徴を事前に調べるなら、精神科の求人に詳しい転職サービスを使うと、病棟ごとの違いを確認しやすいことがあります。看護師転職サイトのランキング記事でも紹介していますので、参考にしてみてください。
まとめ――「向いている人」を探すより、自分が何を大事にしたいかを考える
「精神科に向いている人の特徴」を列挙した記事は、ネット上にたくさんあります。でも、そのリストに自分が当てはまるかどうかで判断しようとすると、どこか的外れな感じがするのは私だけではないと思います。
自分が精神科で続けられたのは、「向いているから」ではなかったかもしれない。仕事の環境が自分に合っていて、処置が少ない落ち着いた職場で患者と話せることが心地よかっただけ、という気がします。
今思う「向いている人」は、より丁寧に患者と話したい人、患者の思いを聞きたいと思う人です。それが強く動機になっているなら、精神科は働きやすい場所だと思います。
自分がどんな看護をしたいか。何を大事にして患者さんに関わりたいか。
そこから考えていくと、「向いているかどうか」よりも、ずっと大事なことが見えてくる気がします。
よくある質問
Q1. 精神科は未経験でも転職できますか?資格や経験年数は必要ですか?
精神科は、未経験でも転職できる職場が多いです。精神科認定看護師などの資格は入職時には必須ではなく、経験年数の条件も病棟によって違います。
私自身、精神科に来る前はICUにいて、精神科の知識はほぼゼロでした。それでも「向いていない」と思いながら来た先で、意外と続けられた。未経験であることより、働いてみたときの感覚の方が、向き不向きには大きく影響すると思っています。
ただし病棟の種類によって求められるスキルや働き方はかなり違いますので、転職前に病棟の特徴をある程度把握しておく方が、入ってからのイメージと実際のズレが少ないと感じています。
Q2. 精神科は「楽」と言われますが、実際はどうですか?
楽なのは確かです。急性期の外科・内科と比べたら、点滴の数や処置が少ない。その部分では、体力的な消耗は少ないと思います。
ただ、楽じゃない部分も確実にあります。興奮や暴れる患者さんへの対応、理不尽な態度に対しての対応をしないといけないときは、精神的にしんどいです。「楽」という言葉が独り歩きしているような気がして、ちょっと違うなと感じることはあります。
私がいた身体合併症病棟は処置も多かったので、体力的にも決して楽ではありませんでした。精神科のどの種類の病棟かによって、「楽かどうか」はかなり変わります。
Q3. 精神科で働くと身体科のスキルは落ちますか?
私自身は、特にないと感じています。精神科身体合併症病棟にいたことで、外科・内科の処置や管理を続けられたからです。そういう意味では精神科身体合併症病棟でよかったと思う部分もあります。
一般的な精神科病棟(慢性期など)では、採血や点滴の機会が減るため、手技のスピードや自信は落ちていく可能性があります。「スキルを維持したい」という気持ちが強い方は、病棟の種類を選ぶ際の判断材料のひとつにするといいかもしれません。