看護師が美容クリニックに転職するのは「看護じゃない」? 病棟15年ナースの正直な考え
美容クリニックへの転職、気になっていませんか。
「看護じゃない」と言われそう、スキルが落ちそう、ノルマが大変そう——そういった不安を抱えながら、それでも「一度くらい働いてみたい」と思っている人は少なくないはずです。
わたし自身は美容クリニックで働いた経験がありません。男性看護師であることと、夜勤手当がなくなると給料が下がるという現実があって、選択肢には入ってきませんでした。
ただ、病棟看護師として15年・4科を経験してきた中で、美容クリニックに転職した同僚の話を聞いたり、「自分だったらどうするか」を考えてきた部分はあります。
直接体験がないからこそ、知ったふうに語ることはしたくない。その代わり、「病棟側から見た美容クリニック」という視点で、正直に考えたことを書いてみます。
美容クリニックが気になり始めたあなたへ
病棟がしんどくなってきたとき、「美容クリニックに転職できたら」と考えることは珍しくないと思います。
夜勤がない、急変対応がない、患者との関係も穏やか——そんなイメージを持っている方もいるかもしれません。
ただ、正直に言うと、わたしは「美容クリニックは楽そう」というイメージを最初から持っていませんでした。
自分が転職先を考えたとき、美容クリニックが候補に上がらなかった理由は二つです。男性看護師であること、そして夜勤手当がなくなること。今の年収が夜勤・残業を含んでなんとか成り立っているので、それが丸ごとなくなるのはきつい。それだけの理由で、頭から外れていた選択肢でした。
でも、女性看護師にとっての美容クリニックは話が違います。「夜勤から解放されたい」「病棟の忙しさから少し離れたい」という動機は、十分に理解できます。
この記事は、美容クリニックへの転職を「するべき」とも「やめるべき」とも言うつもりはありません。判断に使えそうな材料を、わかる範囲で書いていきます。
一般的なクリニック転職全般については、こちらの記事でも書いていますので、参考にしてみてください。
美容クリニックの仕事内容と病棟との違い
美容外科と美容皮膚科の違い
「美容クリニック」と一口に言っても、働く内容はかなり異なります。
美容外科は、二重まぶたの手術・脂肪吸引・豊胸手術といった外科的処置が中心です。術前準備・術中介助・術後管理といった、病棟の手術室やICU経験が活きる業務が多くあります。
美容皮膚科は、レーザー照射・ヒアルロン酸注射・ボトックス注射・美容点滴などが中心です。処置そのものより、カウンセリングや接客の比重が大きくなります。
同じ「美容クリニック」でも、美容外科と美容皮膚科では必要なスキルも大変さの種類も違います。転職を考えるときには、どちらの診療科を目指すのかを先に確認することが大切です。
病棟ナースから見た「仕事の違い」
病棟との最大の違いは、「大変さの種類が変わる」という点だと思っています。
精神科に12年、その後地域包括ケア病棟に転職して、わたしが感じてきた「大変さ」は——急変対応、夜勤中の孤独な判断、患者から理不尽な対応を受けること——こういったものでした。
美容クリニックの大変さはそれとは別物です。急変対応や夜勤はなくなる代わりに、接客・営業・少人数運営の中での主体性が求められます。「楽になる」のではなく、しんどい場所が移動するイメージです。
美容クリニック転職のメリットとデメリット
メリット — 日勤のみ・高給与・美容知識
美容クリニックに転職した看護師が「よかった」と感じやすい点は、主に以下の3つです。
夜勤がない
日勤のみで働けることは、体力的にも生活リズムの安定という意味でも大きいです。夜勤手当がなくなっても、美容クリニックの給与水準はそれをある程度補えるケースがあります(ただし施設によって差が大きい)。
給与水準が高めのケースがある
病棟と同程度、場合によってはそれ以上という求人もあります。ただし年収は「夜勤手当・残業手当込みの病棟年収」との比較になるので、単純に高いとは言えません。わたし自身、夜勤手当がなくなると年収が大きく変わる構造を実感しているので、この部分は慎重に確認した方がいいと思っています。
看護師の年収の実態については、こちらの記事でもまとめています。
美容知識の習得・社割
美容医療の知識は病棟では得られないものです。自分自身の美容への関心が高い方にとっては、学べる環境とコスト面での優遇は魅力になると思います。
夜勤のない働き方を探している方は、夜勤なしで働ける職場についての記事も参考にしてみてください。
デメリット — ノルマ・スキル・キャリアの制約
営業ノルマの存在
美容クリニックでは、施術や商品の販売目標(ノルマ)が課される施設があります。病棟看護師には馴染みのない「営業」という業務で、戸惑う人が多いと聞きます。
わたしの同僚が美容クリニックに転職したときの話を聞いて、この部分が一番「大変そうだな」と思いました。転職して半年ほどで、施術のリーダー的な役割を任されることになったそうです。人員が少ない環境だから、経験がなくてもすぐに責任ある立場になる。営業・接客・後輩指導が一気にのしかかってきたと聞きました。
「美容クリニックは楽そう」というイメージは、その話を聞いてから完全に消えました。
臨床スキルの偏りと病棟復帰のハードル
点滴・急変対応・チーム医療といった病棟の処置を日常的に行う機会は減ります。数年経ってから病棟に戻ろうとすると、スキル面での不安が出てくる可能性はあります。
ただし、これは「スキルが落ちる」という表現より「使うスキルの種類が変わる」と捉える方が実態に近いかもしれません。
土日休みが取りにくい場合がある
美容クリニックは患者が来やすい土日に診療を行う施設が多く、病院のような完全な土日休みにはならないケースが多いです。
「スキルが落ちる」は本当か
これはよく聞かれる不安ですが、「落ちる」というより「変わる」という言い方の方が正確だと思っています。
わたしは4科を経験してきました。ICUから精神科身体合併症病棟に異動したとき、「身体科のスキルが落ちる」と言われたことがあります。でも実際には、精神科身体合併症病棟で外科・内科・化学療法・妊産婦まで担当していたので、スキルが落ちるどころか幅が広がった実感があります。「精神科に行ったら身体科のスキルが落ちる」は、わたしの場合は当てはまりませんでした。
科が変わるたびに不安はありました。「ここで働けるのか」と毎回思いました。でも入ってから勉強すれば、なんとかなってきた。これはどの科に行っても同じだったと思っています。
美容クリニックも同じだと考えています。病棟での処置の機会は確実に減りますが、代わりに接遇・カウンセリング・外来対応といった別のスキルが身につく。どちらがよいという話ではなく、そういうトレードオフがあるということです。
「看護じゃない」と言われることについて
美容クリニックへの転職を考えていると、「それって看護じゃないよね」と言われることがあります。
正直に言うと、わたし自身は精神科に12年いましたが、「精神科は看護じゃない」と直接言われた記憶はありません。ただ、そういう雰囲気がどこにでもあることは感じてきました。「急性期こそ本当の看護」「病棟以外は看護じゃない」。口に出さなくても、そう思っている人はいる。
美容クリニックへの転職でも、似た目線が向けられることがあると思います。
でも、何をもって「本当の看護」と呼ぶかは、人によって違うはずです。精神科身体合併症病棟では外科・内科から妊産婦まで担当していたし、患者と丁寧に向き合う時間がある環境で、自分に合っていると感じていました。あれは「看護じゃない」とは思えない。
「看護かどうか」を他の人が決めるものではないと思っています。
いかに自分が楽しく働けるか。15年の経験を経て、最終的にはそこに行き着きました。看護師なりたての頃は「勉強したい・経験したい」で病棟を選んでいました。でも今は「いかに自分が楽しく働けるか」がとても大切だと思っています。
美容クリニックを「看護じゃない」と言う人がいても、そこで自分がやりがいを感じて働けるなら、それは十分に価値のある選択だとわたしは思います。
美容クリニックに向いている人・合わないかもしれない人
これはわたし自身に当てはめて考えてみたことです。
「人をきれいにしたい、きれいにして喜んでほしい」——そういう思いがある人は、美容クリニックに向いていると思います。施術後に患者さんが喜ぶ場面に立ち会えることが、仕事のやりがいになる。それが自分のモチベーションにつながるなら、美容クリニックという環境は合っていると思います。
逆に言うと、わたし自身は美容への関心がもともと強くないので、向いていないと思っています。「人をきれいにすること」よりも「急変対応・身体管理・精神科でのかかわり」が仕事のやりがいだった。それが正直なところです。
向いていないかもしれない人として、もう一つ挙げるとすれば——「楽になりたいから」だけで選ぼうとしている場合は、少し立ち止まった方がいいかもしれません。美容クリニックは病棟とは違う大変さがある場所です。「病棟のつらさから離れたい」という気持ちは十分に理解できますが、その先に何をしたいかが少しでもあると、選んだあとが変わってくると思います。
病棟経験はどのくらい必要か
「美容クリニックに転職するために、病棟経験は何年必要ですか」という疑問をよく見かけます。
求人条件としては、「臨床経験2〜3年以上」を目安にしているクリニックが多いです。ただ、施設によって異なりますし、未経験可の求人もあります。
わたしの考えを正直に言うと、「行きたいと思う時でいい」というのが答えです。
基礎的な看護技術——採血・点滴・バイタル測定——ができる状態であれば、経験年数よりも「入ってからどれだけ努力するか」の方が大事だと思っています。
自分は4科を経験してきましたが、どの科に異動・転職したときも、「分からないことは勉強する。分からないことは確認する」という姿勢でやってきました。それしかないというのが正直なところです。
経験年数の不安より、「入ってから自分がどうするか」を先に考えた方が、不安は減ると思います。
1年目・2年目での転職を考えている方は、初めての転職についての記事や、20代の転職についての記事も参考にしてみてください。
美容クリニック転職で後悔しないためのチェックポイント
美容外科か美容皮膚科か、自分の適性を考える
前述の通り、美容外科と美容皮膚科では仕事の中身がまったく違います。
急性期病棟やICUの経験があり「手術介助がやりたい」という方は美容外科が向いています。外来業務・接客・カウンセリング寄りの仕事がしたいという方には美容皮膚科が合うかもしれません。
求人を見るとき、「美容クリニック」でひとまとめにせず、どちらの診療科かを先に確認することをおすすめします。
ノルマの有無・働き方を事前に確認する
ノルマの存在はクリニックによって異なります。まったくない施設もあれば、明確に数字を求められる施設もあります。
面接や見学の際に「ノルマや売上目標はありますか」「スタッフは何人ですか」「入職後のサポート体制は」を確認しておくと、入ってからのギャップを減らせます。
転職を決めた後の退職手続きで引き止めにあったときの対処法については、こちらの記事も参考にしてみてください。
「楽そう」で選ぶと後悔する理由
美容クリニックを「病棟より楽そうだから」という動機だけで選ぶと、入職後に苦しくなりやすいと思います。
わたしの同僚の話が正直なところを語っています。半年でリーダー的役割を任されて、営業・接客・後輩指導が重なって、「大変だった」と言っていました。少人数の職場は、一人ひとりへの負荷が高い。「夜勤のつらさ」とは別の種類のしんどさが待っています。
「病棟のつらさから逃げたい」という気持ちは、まずそれ自体が正直な気持ちとして大切です。ただ、転職先の「別のしんどさ」にも目を向けた上で選ぶ方が、後悔は少ないと思います。
転職で後悔しないための考え方については、こちらの記事も参考にしてみてください。
自分が楽しく働ける場所を選ぶということ
美容クリニックへの転職が「正解かどうか」は、人によります。夜勤から解放されて、自分に合った仕事のスタイルで働けるなら、それは前向きな選択です。一方で、美容クリニック特有の大変さ——営業・少人数・主体性——が自分に合わない場合は、しんどくなることもある。
どちらが正しいという話ではなく、自分がどこで楽しく働けるかを軸にして考えることが大事だと思っています。
わたしは看護師として15年働いてきた中で、働く場所を選ぶ基準が変わりました。なりたての頃は「勉強したい・経験したい」で病棟を選んでいました。でも今は「いかに自分が楽しく働けるか」がとても大切だと思っています。
看護の形は一つではないし、どこで働いても、そこで自分がやりがいを感じられるなら、それは十分な看護だと思う。
美容クリニックを迷っているなら、まず求人を見てみるだけでも、「具体的にどんな仕事か」がイメージしやすくなると思います。看護師の転職サイト比較記事では、美容系の求人を扱う転職サービスについても触れていますので、参考にしてみてください。
自分の気持ちを大切に。どこで働くかを決めるのは、あなた自身です。