精神科での12年を振り返ったとき、一番最初に浮かぶのは「きつさ」ではなく「やるせなさ」という言葉です。

きつかったのは確かです。でも、そのきつさの種類が、自分にとってうまく言語化できないままずっとそこにあった。精神科のきつさって、外からはほとんど見えないんですよね。一般病棟の「忙しい」「体力的に限界」というきつさとは、種類が違うから。

この記事では、精神科で12年働いてきた経験をもとに、「何がきつかったのか」を正直に書いてみます。きれいにまとめるつもりはありません。


精神科が「きつい」と言われる理由

精神科特有のきつさには、いくつか種類があります。一般病棟では経験しない種類のしんどさが、精神科には重なっています。

患者からの暴言・暴力

精神科では、精神症状の影響で患者さんから暴言や暴力が起きることがあります。これは精神科の現実として、あらかじめ知っておくべきことです。

身体的な危険と、精神的なダメージの、両方があります。

私は男性看護師なので、「率先して前に立つ」役割を求められることが多かったです。「ハロくん行って」という流れが自然に生まれていた。それ自体を責める気はないんですが、怖かった。身体的にも怖いし、「なんで自分が」という気持ちも正直ありました。

暴言もきつかったです。怒鳴られたり、ひどい言葉を浴びせられたりする。患者さんが病気でそういう状態にあることはわかっています。でも、わかっていても、刺さるんですよね。心に。

法に基づいた隔離・拘束

精神保健福祉法に基づいて、患者さんを隔離したり身体を拘束したりする処置があります。本人が強く拒否しているときでも、安全を守るためにやらなければならない場面がある。

これが複雑なんです。

患者さんのために、安全のために行っている。そのことは理解しています。でも、本人の意思に反することをしている、という事実は変わらない。その処置に自分の手が加わるたびに、何か複雑なものが残りました。慣れたとは言えないし、慣れてはいけないとも思っていました。

犯罪歴のある患者との関わり

精神科では、犯罪に関連する背景を持つ患者さんが入院してくることがあります。

一般の仕事では、まず接することのない状況です。それが日常になる。「社会の闇を見た」という感覚が、精神科12年のどこかでじわじわと積み重なっていきました。

精神科のリアルについて、もう少し広く書いた記事もあります。→精神科で働いてみてわかったこと(nurse-psychiatric-ward-real)


手順はある。でも感情は処理されなかった

精神科のきつさの中で、私が一番言いたいのはここです。

CVPPPという対応プログラム

精神科には、CVPPP(シーブイトリプルピー)という包括的暴力防止プログラムがあります。

暴言・暴力が起きたときにどう対応するか、そして暴力を受けた後のデブリーフィング(スタッフへの心理的サポート)を含む、体系的なプログラムです。精神科では標準的に導入されています。

存在すること自体は、大切なことだと思います。

「対応された」のに残ったやるせなさ

暴力を受けたとき、CVPPPに則って対応してもらいました。手順はあった。手続きは踏んだ。

でも「やるせなさはすごい残った」というのが、正直なところです。

制度で対処されたことと、感情が処理されたことは、別の話でした。デブリーフィングで話を聞いてもらっても、「なんで患者さんのためにやっているのに、こういう扱いを受けるんだろう」という気持ちは消えなかった。

そのやるせなさを抱えたまま、翌日の勤務が来る。感情が消えたわけじゃないのに、また病棟へ行く。それが精神科の日常でした。


精神科のきつさとどう付き合ったか

「こうすれば解決した」という話ではありません。でも、12年続けられたのには、それなりの理由があります。

同僚との共有が支えだった

男性看護師同士で、よく話していました。患者対応のフォローをし合うこともあったし、「あのときしんどかったよな」という話を正直にできる関係がありました。

「自分だけじゃない」という感覚は、きつさの中で支えになっていたと思います。精神科には、特有の大変さを共有できる仲間がいた。それが12年続けられた理由の一つだったと、今は思います。

職場の人間関係で悩んでいる方は、看護師の職場人間関係について書いた記事も参考にしてみてください。

答えが出ないまま、考え続けるしかなかった

治療を拒否する患者さんがいます。退院してもまた入院してくる患者さんがいます。自分の関わりに意味があったのか、よくわからないことが続きます。

答えが出ない場面の連続でした。

「考え続けるしかないな」と思っていました。解決策があるわけじゃない。でも、考えることをやめたら、自分が何のためにここにいるのかわからなくなる気がして。だから考え続けていました。


「精神科はやめておけ」とは言いたくない

きつさの中にあったもの

12年続けられたのは、人間関係が良かったからというのが大きいです。きつい場面を一緒に抱えてくれる人たちがいた。

それと、「一人の人に丁寧に向き合う」という精神科の仕事のスタイルが、自分には合っていた部分があったと思います。急性期の一般病棟のように、次々と処置をこなしていく仕事とは違う。精神科には、じっくりと関わる時間があった。そこは自分に合っていた。

きつさがゼロになったわけじゃない。でも、きつさだけが精神科ではなかった。

精神科看護師に向いている人の話は、別の記事でも書いています。→精神科看護師に向いている人・向いていない人(psychiatric-nurse-traits)

きつくても続けるか、離れるかは自分で決めていい

精神科がきついと感じている人に、「やめておけ」とも「続けなさい」とも言えません。

きついと感じていること自体は、間違っていないと思います。それはあなたがおかしいんじゃなくて、それだけのものがある職場だということです。

その上で、自分の感覚を大切にしていいと思っています。続けることも、離れることも、どちらかが正解というわけじゃない。自分の感覚を信じて、どちらの道も選んでいい。

もし「辞めたい」という気持ちがあるのに、なかなか動けないでいる場合は、辞めたいのに辞められない看護師へ(nurse-resignation-stop)という記事も書いています。その気持ち、一度読んでみてもらえると少し楽になるかもしれません。

精神科から転職を考えている方は、精神科看護師が転職するとき(psychiatric-nurse-transfer)という記事も書いています。

看護師として「向いていない」という感覚も一緒に持っている方は、看護師に向いていないと感じたときの考え方(nurse-not-suited)も読んでみてください。


FAQ

精神科看護師のきつさは慣れますか?

身体的な対応スキル、たとえばCVPPPの技術や患者さんとの距離のとり方は、経験とともに上がっていきます。業務の流れにも慣れます。

でも、感情面のしんどさが消えるかというと、正直それは別の話でした。12年いても「やるせなさ」は残りました。慣れたのは対応であって、感情ではなかった。

「慣れれば楽になる」という期待は、半分は当たっているし、半分はそうじゃないかもしれません。

これから精神科への転職を考えています。覚悟しておくべきことはありますか?

暴言・暴力のリスク、隔離拘束への関与、答えが出ない場面が多い仕事であること。この記事で書いたことが、おおよその実態です。

「やりたいと思うなら、やってみたほうがいい」と私は思っています。ただ、判断基準になるとしたら、「患者さんからの理不尽な言動を、どこかで受け入れられるか」というところかもしれません。

これは「我慢できるか」という話ではなくて、「しんどくなりながらも、その場にいられるか」という感覚の話です。やってみないとわからないところも正直あります。


精神科のきつさは、語りにくいしんどさがあります。外から見えにくいから、「そんなもの?」で終わってしまうことも多い。

でも、あなたが感じているしんどさは、ちゃんとそこにあります。

環境を変えることも選択肢のひとつです。看護師の転職サイトを比較した記事を書いていますので、参考にしていただければ。→看護師転職サイトランキング(nurse-job-change-ranking)

自分に合う場所を探してみるのも、ひとつだと思います。

ABOUT ME
ハロ
看護師歴15年。ICU・外科病棟・精神科身体合併症病棟・地域包括ケア病棟と4科を経験。現在も現役で病棟勤務をしています。 特に精神科身体合併症病棟では12年勤務し、精神疾患を抱えながら身体合併症の治療を要する患者さんと向き合ってきました。看取り、認知症ケア、終末期、急変対応――現場でしか得られないリアルを大切に、自分の体験と感情を正直に書くブログを運営しています。 「正解を教える」のではなく、「同じ目線で一緒に考える」スタンスで、読者の方が少し楽になる文章を目指しています。 【主な発信テーマ】 ・看護師のキャリアと転職 ・精神科看護のリアル ・看護師のメンタルヘルス ・現場で感じた違和感や気づき
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