精神科でうまくやれている人の共通点——12年間で見えたこと

精神科に向いているのはどんな人だろう、と考えたとき、すぐに「コミュニケーション力がある人」とか「忍耐力がある人」という言葉が浮かんできます。転職サイトの記事でもよく見かける表現です。

でも、実際に12年間精神科の身体合併症病棟で働いてきた自分が思うのは、もう少し具体的な話で、もっと地味なことです。

「向いている人はこういう人です」と断定するつもりはないのですが、現場で「あ、この人は精神科でうまくやれているな」と感じた同僚の振る舞いや、「自分はここが苦手だな」と感じてきたこと、そしてしんどくなったときに実際に使ってきた対処法を、この記事に書いてみます。

精神科への転職や異動を考えている方、今の精神科でうまくいっていないと感じている方の、判断材料の一つになればと思います。


できないことを「できない」と伝え、納得させるのが上手い人

精神科の患者さんは、さまざまな理由で「これをやってほしい」「今すぐ〇〇したい」という要望を繰り返すことがあります。すべての要望をかなえることが看護ではないため、断らないといけない場面がどうしても出てきます。

そこで大事になるのが、断りながら関係を壊さない能力です。

「できないことはできないと伝えて、それでも患者さんが納得してくれる」——そういうやりとりがさらりとできる同僚がいました。強引に押しつけているわけでも、謝り続けているわけでもなく、ちゃんと理由を伝えて、相手が「まあ仕方ないか」という着地点に来ている。

これは精神科の中でも特に重要なスキルだと、長く働く中で思うようになりました。

「限界設定」という言葉が精神科ではよく出てきます。患者さんとの関わりで、どこまでがケアでどこからが患者さんの自分でやるべきことか、線を引くことです。この線を引くのが得意な人は、精神科での仕事が比較的やりやすいように見えます。

精神科の仕事内容のリアルについては、精神科の仕事はどんな感じ?12年働いてみてわかったことに書いているので、よかったら読んでみてください。


患者の変化に気づける人——表情や態度の「いつもと違う」を感じ取る

精神科では、数値に出にくい変化を読む場面が多いです。

血圧や体温のように測れるものではなく、「なんか今日はいつもと違う」という感覚のことです。表情が固いとか、声のトーンが落ちているとか、いつもより動きが少ないとか。

そういう違和感を、流さずに「どうしました?」と声をかけられる人が、精神科では頼りになります。

自分も、「表情や態度がいつもと違う。そういう違和感を感じることがある」という経験は何度もしてきました。感じ取ること自体はできるのですが、忙しいときに「気になったけど声をかけられなかった」という後悔も正直あります。

気づく力は、意識して育てていけるものだと思っています。


「わからないまま」を抱えていられる人

精神科は、正解が見えにくいです。

この対応は正しかったのか。あの声かけは意味があったのか。患者さんが回復しているのか悪化しているのか。治療の効果がなかなか出ない中で、答えが出ないまま関わり続けることが多い。

「答えが出ない経験はたくさんした」と感じてきました。それでも「考え続けるしかないな」と思いながら関わることが、精神科では普通のことになっています。

たとえば、治療を拒否している患者さんへの対応がそうでした。本人の意思と、医療として必要なことの間で、どこまで関われるのか。その場で判断するしかない場面が何度もあって、「乗り越えた」とは言えないまま経験してきた、というのが正直なところです。あの対応が正しかったのかは、今もわかりません。

白黒つけないと気持ち悪い、という感覚が強い人は、精神科のあいまいさに消耗しやすいかもしれません。逆に、わからないことをわからないままにしておくことが比較的できる人は、精神科のペースに合いやすいように感じます。


精神科がしんどくなりやすい人の特徴——自分も当てはまる

ここからは、「しんどくなりやすい特性」の話です。

最初に言っておくと、自分がこれに当てはまります。

「向いていない人は精神科に来ない方がいい」という話をしたいわけではなくて、こういう傾向があるとしんどくなりやすいよ、という話です。自分もそうだと感じながら12年間働いてきたので、向いていないことと続けることは別の話だと思っています。

看護師全般に「向いていない」という感覚を持っている方は、看護師に向いていない?そう感じるときに考えてみてほしいことも参考になるかもしれません。


患者の言うことに振り回されやすい人

自分がこのタイプです。

患者さんに「まだですか」「早くしてください」とせかされると、焦ってしまいます。他のことが手につかなくなる感覚です。「どうしても患者さんの言う通りに動こうとしてしまう」という動き方になってしまうことが、今でもあります。

適切に対処できているかと言われると、正直今でもわかりません。うまくいく日もあれば、引きずられてしまう日もある。克服した、という話ができないのが正直なところです。

「なんで自分だけこんなに振り回されるんだろう」と思ったこともありましたが、これはある意味、患者さんの言葉をちゃんと受け取ってしまっているということでもあると、今は少し思っています。完全に消すべき特性とも言い切れない。ただ、しんどくなりやすいのは確かです。


線引きが苦手で、感情的に巻き込まれやすい人

共感力が高い人は、精神科での仕事に向いている面もありますが、消耗しやすい面もあります。

患者さんの苦しさや怒りが自分の感情に乗り移ってくる感覚、というのが精神科では起きやすいです。「のめりこむ」という言い方をする場合もあります。

自分も、以前に他のスタッフから「やりすぎ」と言われたことがありました。患者さんのためを思ってやっていたことが、チームから見ると距離の取り方が近すぎると映っていたようです。

線引きを意識することは、精神科で長く働く上での課題の一つです。感情的に巻き込まれやすい人は、特にそこを意識する必要があります。


振り回されそうになったときの対処法——自分がやってきたこと

「しんどくなりやすい側」として12年間やってきた中で、実際に自分がやってきた対処法を書きます。

「これが正解」というつもりはないです。あくまで「自分はこうしていた」という話です。


他のスタッフに話して、客観的な意見を取り入れる

一番効果があったと感じているのは、これです。

患者さんとのやりとりでしんどくなったとき、一人で抱え込まずに他のスタッフに話すようにしていました。「こういう対応をしたんだけど、どう思う?」という感じで。

話してみると、「それは仕方ない」「自分もそう対応する」と言ってもらえることもあるし、「こういうふうに伝えた方がよかったかも」とアドバイスをもらえることもある。

何より、一人の視点から離れられます。自分が振り回されていたとしても、他の人の話を聞くと「あ、そういう見方もあるのか」とリセットできる感覚がありました。

精神科の現場では、チームで共有することが治療的にも機能するという側面があります。自分だけで抱え込まないことは、対処法というより、仕事の基本として覚えておいてよかったと思っています。


「できない」と伝えることに慣れる——完璧に応えなくていい

先に書いた「できないことをできないと伝えて納得させるのが上手な同僚」の姿を見ながら、自分なりに取り入れようとしてきました。

ただ、正直に言うと、まだ苦手です。

患者さんにできないと伝えたあと、「もっと違う言い方があったんじゃないか」とか「もうちょっとだけ対応できたんじゃないか」と後から考えてしまいます。

それでも、「すべての要望に応えなくていい」という感覚は、少しずつ持てるようになってきました。断ることが看護の放棄ではない。患者さんとの関係の中で「できないことはできない」と伝えることも、一つのかかわり方だ。——そういう考え方が、今は少し自分の中に入っています。

「目指している」という段階の話で、「できるようになった」とは言えないのですが、向かっている方向としてはここだと思っています。


「向いている・向いていない」で自分を決めつけなくていい

精神科に向いている特徴に当てはまらないからダメ、ということはないと思っています。

自分は、向いていない側の特性をいくつも持ちながら、12年間精神科で働いてきました。

それは「克服できた」というよりも、「やり方を少しずつ見つけてきた」という感じです。チームに話すことで一人で抱え込まないようにしてきた。振り回されながらも、なんとか続けてきた。

振り返ってみると、もう少し早く「しんどくなりやすい自分の特性」を知っておけたらよかったと思うことがあります。そうすれば、もっと肩の力を抜いて働けたかもしれない。

向いているかどうかを白黒つけるより、「自分はどこがしんどくなりやすくて、それをどう対処するか」という問いの立て方の方が、実際の仕事では役に立つと感じています。

精神科の適性についてさらに深く知りたい方は、精神科に向いている人とは?自分の適性を考えてみたも読んでみてください。精神科の日常的な仕事のイメージをつかみたい方は、精神科看護師あるあるも参考になります。

精神科への転職を考えている方は、精神科看護師が転職するとき考えることも一緒に読んでみてもらえると、判断材料が増えるかもしれません。看護師の転職サイトの比較については、看護師転職サイトランキングにまとめています。


よくある質問

精神科は「楽」と聞きますが、実際はどうですか?

身体科に比べて点滴の数や処置が少ないため、「楽」と言われることは多いです。

自分の実感としても、楽なのは確かです。ICUや急性期の病棟と比べると、仕事の忙しなさは全然違います。

ただ、別の種類のしんどさがあります。興奮して暴れる患者さんへの対応や、理不尽な言動を向けられたときに「なんで患者のためにやっているのに、こういう扱いを受けるのか」と感じる場面は、精神科にいる間ずっとありました。点滴の本数とは違うところで消耗します。

「楽かどうか」は、何を楽と感じるかによって変わってくると思います。処置の数が少ないのは確かですが、患者さんとの関わり方で消耗しやすい人にとっては、楽とは感じにくいかもしれません。

精神科で働くと身体科のスキルは落ちますか?

精神科(特に慢性期)では身体面の処置機会が減ることが多く、スキル低下を心配する声はよく聞きます。

自分は精神科身体合併症病棟で働いてきたため、身体管理も並行して行ってきました。実感としては「特にない」です。この点では、身体合併症病棟という環境がよかったと思っています。

ただ、これは病棟の種類によって大きく変わります。純粋な精神科病棟(慢性期)と、身体合併症病棟では状況がかなり異なりますので、転職や異動の前に、どんな病棟かを確認するのが自分は重要だと思っています。

ABOUT ME
ハロ
看護師歴15年。ICU・外科病棟・精神科身体合併症病棟・地域包括ケア病棟と4科を経験。現在も現役で病棟勤務をしています。 特に精神科身体合併症病棟では12年勤務し、精神疾患を抱えながら身体合併症の治療を要する患者さんと向き合ってきました。看取り、認知症ケア、終末期、急変対応――現場でしか得られないリアルを大切に、自分の体験と感情を正直に書くブログを運営しています。 「正解を教える」のではなく、「同じ目線で一緒に考える」スタンスで、読者の方が少し楽になる文章を目指しています。 【主な発信テーマ】 ・看護師のキャリアと転職 ・精神科看護のリアル ・看護師のメンタルヘルス ・現場で感じた違和感や気づき
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