精神機能とは?感情のアセスメントと看護記録への書き方|精神科10年超の現場から

精神機能とは何か、感情障害の種類(鈍麻・失禁・抑うつ・高揚)、感情のアセスメント方法を解説。精神科身体合併症病棟で10年以上働いた看護師が、教科書の定義と臨床のズレ、MSEで変わった看護記録の書き方を現場の体験から語ります。

休憩室のソファで参考書を膝に開いたまま考え込んでいる男性看護師
この記事は 約11分 で読めます
目次
  1. 精神機能とは?種類と各要素の関係
  2. 精神機能の種類
  3. 感情とは?精神機能としての「感情」の役割
  4. 感情障害の種類と臨床での見え方
  5. 感情鈍麻(感情の平坦化)
  6. 抑うつ
  7. 気分高揚(躁状態)
  8. 感情失禁 ── 教科書と臨床のズレ
  9. 感情をアセスメントするポイント
  10. MSEで変わった看護記録の書き方
  11. 感情に引きずられる看護師の葛藤
  12. まとめ ── 患者さんを一人の人として見るために

「患者さんの精神状態が悪いんだけど、記録に何て書けばいいかわからない」

精神科に限らず、こういう場面は誰でも経験があるのではないでしょうか。
患者さんの様子がいつもと違う。何かがおかしい。でも、それを言葉にしようとすると詰まってしまう。

私は精神科身体合併症病棟に10年以上いました。
MSEという看護技術を知って勉強するついでに、この記事を書き始めました。
「精神科看護を行うなら必須の知識だから」という、それだけの動機でした。

でも書いていくうちに、自分がいかに「感情」というものを雑に見ていたかに気づきました。
そして難しいんですよね。

この記事では、精神機能とは何か、その中でも「感情」にしぼって、
アセスメントの実際と看護記録の書き方を整理しています。
教科書の定義と、臨床で自分が実際に見てきたものと、両方から書いています。

精神機能とは?種類と各要素の関係

精神機能とは、人の心が働く際の機能全体のことです。
意識・思考・感情・知覚・意欲・記憶といった要素が複雑に絡み合い、私たちの精神活動を支えています。

それぞれの要素は独立して働きながら、互いに影響し合っています。
たとえば、感情が乱れると思考力が落ちて意欲にも波及します。
感情が他の精神機能に影響することは、臨床で実感する場面も少なくありません。
だからこそ、精神状態をアセスメントするときは、どの要素がどう障害されているかを分けて考えることが大切だと感じています。

精神機能の種類

精神機能を構成する主な要素は以下の通りです。

  • 意識:覚醒と認識の基盤。障害されると周囲の状況を正確に把握できなくなる
  • 思考:物事を論理的に考える力。障害されると妄想や思考のまとまりのなさが現れる
  • 感情:物事や人への気持ち。感情障害には感情鈍麻・抑うつ・気分高揚などがある(本記事で詳しく解説)
  • 知覚:外界の刺激を感じ取る機能。幻覚や錯覚はこの機能の障害によるもの
  • 意欲:行動に向けた動機やエネルギー。低下すると無気力・陰性症状として現れる
  • 記憶・見当識:過去の情報を保持し、現在の時間・場所・人物を認識する機能

WHO の ICF(国際生活機能分類)では、精神機能は「心身機能」の中の「精神機能(b1)」として位置づけられています。
意識機能・見当識機能・知的機能・全般的精神社会機能・睡眠機能・気質と人格の機能・活力と衝動の機能など、さらに細かく分類されています。

精神機能を構成する要素を1つひとつ理解しておくと、患者さんの様子から「何が障害されているか」を言葉にしやすくなります。

本記事ではこのうち「感情」にしぼって解説します。

感情とは?精神機能としての「感情」の役割

感情は学術的に様々な定義があり、一言で説明するのが難しいものです。
ここでは簡潔にまとめます。

感情とは、人が物事や他者に対して抱く気持ち・情動のことです。
感情が障害されることを「感情障害」といい、気持ちのコントロールがうまくいかない状態を指します。

感情が他の精神機能に強く影響することは、臨床で働いていると実感する場面が多いです。
重度の抑うつ状態の患者さんは、集中力も落ちていて記憶も曖昧になる。
逆に気分が高揚している患者さんは、睡眠が短くても「元気です」と言い張って、現実認識がずれていることがある。

患者さんの言動の裏には、何かしらの感情があります。
「話の仕方がいつもと違う」「食事を拒否し始めた」「日常生活の行動が変わった」――
こういう変化が感情のアセスメントの入口になります。

感情は思考や記憶など他の精神機能に強く影響するため、必ずアセスメントが必要な精神機能です。

感情障害の種類と臨床での見え方

感情障害には様々な種類があります。
ここでは主な4つを、教科書の定義と臨床での実際の両方から整理します。

感情鈍麻(感情の平坦化)

教科書的な定義:感情の表出が乏しく、無関心に見える状態。感情反応が弱く、喜怒哀楽が表面に出てこない。

臨床で実際に見えた姿

重度のうつ状態の患者さんと関わったとき、「何やっても反応がない。ときおり意図が不明な行動をする」という状況が続きました。

声をかけても返ってこない。うなずきもない。こちらが何を試みても、反応がない。

最初は「この人はそういう人なんだ」と受け止めることから始めました。
でも、それだけで終わらせていては何も見えてこない。
だから次に考えるのは「なぜ反応がないのか」です。

「理由を考えるよね。何をもとにその言動をするのかを」

本人の言葉を探しながら、記録を読み返しながら、「この人にとって今何が起きているんだろう」と考え続けました。
感情鈍麻の患者さんにとって、反応が出てこないのは意地悪ではなく、そうできない状態にある。
そこを理解しないまま「反応がない人」と分類してしまうと、アセスメントが止まってしまいます。

抑うつ

教科書的な定義:気分が沈み、憂うつな状態が続く。意欲の低下・悲観的な思考を伴うことが多い。

抑うつと感情鈍麻は、臨床でしばしば似たように見えます。
どちらも反応が薄く、無気力に見える。

違いを見分けるときに手がかりになるのは「いつもと違うかどうか」です。
普段よりも会話が減った、食事の様子が変わった、笑顔が消えた――
「いつもの状態から変化しているかどうか」が察知の入口になります。
「表情や態度がいつもと違う。そういう違和感を感じるときがある」という感覚が先に来て、そこからアセスメントを始める流れが自分には合っていました。

気分高揚(躁状態)

教科書的な定義:気分が異常に高揚し、意欲と活動性が亢進している状態。睡眠が短くても疲れを感じず、次々と行動したり話し続けたりする。

臨床で実際に見えた姿

「一方的に話し続け制止が効かない。入院している理由も理解できず、詰め所に張り付いて離れない」

この描写が、教科書の定義を一番わかりやすく補ってくれます。

気分が高揚している患者さんは、エネルギーが溢れていて止まれない。
入院の必要性を伝えようとしても、話が入っていかない。
「詰め所に張り付いて離れない」という状況は、「なぜ退院できないのか」が理解できないまま、スタッフのそばにいることで不安をなんとかしようとしている状態とも読めます。

感情失禁 ── 教科書と臨床のズレ

教科書的な定義:わずかな刺激で突然泣いたり笑ったり怒ったりする状態。感情の抑制力が低下して、小さな刺激で感情があふれ出る。

これについては、正直に書きます。

「感情失禁という場面は臨床ではなかったかな。泣き出したりするときもそれなりの理由があって泣いたりしていて。突然の場面はなかった」

10年以上、精神科身体合併症病棟で働いてきて、教科書通りの「突然の感情爆発」という場面には自分はほとんど出会いませんでした。

患者さんが泣いているとき、それには理由がありました。
たとえば医師との会話の後、面会の後、処置の前後など、何かしらの出来事や状況がきっかけになっていることが多かった。
「突然」に見えていたのは、こちらが気づいていなかっただけで、患者さんの中には文脈があったことがほとんどでした。

だからといって、感情失禁という概念が間違っているとは思いません。
教科書はあくまでも「こういう状態がある」を示したものです。
目の前の患者さんが感情を出したとき、「これは感情失禁だ」と分類して終わりにしてしまうのではなく、「この人に今何があったんだろう」と考える余地を持つことが大事だと今は思っています。

ただ、怒りについては少し話が違いました。

「怒りだすと制止効かなくなる時はあるから、その時は緊張感は走る」

怒りが爆発して制止が利かなくなる場面は確かにありました。
感情失禁の「突然の」という部分より、怒りが止まらなくなる、というこちらの描写の方が自分の経験に近かったです。
そういうときは、確かに身構えます。緊張感が走る。
その場をどう収めるかを、頭の中で素早く計算しながら関わっていました。

感情の表出は、教科書の分類通りに綺麗に分かれるわけではない。
一人ひとりの患者さんを見ることの大切さを、ここで改めて感じます。

感情をアセスメントするポイント

感情のアセスメントとは、患者さんが抱いている・表出している感情を評価することです。
言葉に出している感情だけでなく、行動・表情・言動の変化から読み取ることも含まれます。

自分が実際にやっているプロセスを整理すると、おおむねこんな流れです。

  1. まず受け止める ── 患者さんの反応や言動を「そういう状態なんだ」と一旦受け取る。否定せず、分析もせずに、まず受け止める
  2. 言葉から深掘りする ── 本人の言葉の中に手がかりがないか探す。「なぜそう感じているのか」を患者さんの言葉の中から読み取る
  3. 記録と照合する ── 過去の記録と今日の状態を照らし合わせて、変化を確認する
  4. 理由を考える ── 「なぜ今この状態なのか」「何をもとにしてこの言動をしているのか」を考える

「いつもと様子が同じなのか、普通の人と比べておかしい部分がないか、考えながら患者と関わると変化に気づける」

この視点が日常のアセスメントの土台になっています。

感情アセスメントを続けていると、陽性症状(幻覚・妄想・思考の解体など)と陰性症状(感情の平坦化・無気力・言語貧困など)の変化にも自然と気づけるようになります。
感情の変化は、他の精神機能の変化のサインでもあるからです。

なお、患者さんの感情を評価するとき、自分の感情が入り込まないよう客観的な立場を保つことが求められます。
これは教科書にも書かれていることです。
ただ、「保てているか」は別の話で、ここが看護師として一番難しいところでもあります。
この点については後のセクションでもう少し正直に書きます。

MSEで変わった看護記録の書き方

MSE(メンタルステータスイグザミネーション)とは、患者さんの精神状態を系統的に評価するための看護技術です。
意識・見当識・思考・感情・行動・記憶など、精神状態の各側面を観察・評価する枠組みを提供してくれます。

私がMSEを学ぶ前と後で、一番変わったのは「看護記録の書き方」でした。

以前は患者さんの様子を記録するとき、どうしても主観的な表現になりがちでした。
「落ち着かない様子」「なんとなく不安そう」──
気持ちはわかるけど、他のスタッフが読んでも「どのくらい?」「何がそうさせているの?」がわからない記録。

MSEを学んでからは、

「客観的評価をできるようになった。他の人に伝わる文章になった」

という変化を実感しています。

「こういう状態は専門用語では何というのか」を調べたり考えたりするようになりました。
患者さんの言動を見て「これは感情の平坦化といえるのか」「気分高揚の状態と見るべきか」と、専門用語を意識しながらアセスメントできるようになった。
記録が「自分の印象」から「専門的な評価」になった感覚があります。

それは、記録を読んだ他のスタッフとの共有精度が上がったということでもあります。

「この患者さん、昨日は何事もなかったんですか?」という場面が減って、「昨日の記録にこうあるので、今日も同じ視点で見ていきましょう」という引き継ぎができるようになる。
そういう変化です。

MSEについては、武藤敦志著『他科に誇れる精神科看護の専門技術 メンタルステータスイグザミネーション』を読んで勉強し始めました。
患者さんの精神状態を系統立てて見る枠組みを初めて持てた気がして、いまも手元に置いています。

感情に引きずられる看護師の葛藤

教科書には「客観的な立場を保って、感情移入しないように」と書かれています。
たしかにそれは正しいと思います。

でも、現場ではそれが本当に難しい。

自分のプライマリー患者さんで、要求が多い方がいました。
患者さんと医療者のあいだで約束したことを守ろうとしていました。
お菓子を渡す約束をしていて、その時間に必ず届けるために、業務の合間を縫って動いていた。

「約束を守らないといけないという思いが強く焦っていた」

自分でわかっていたんです。これはやりすぎだと。
でも「約束したから」「この患者さんのためだから」という気持ちが勝っていた。

ある日、他のスタッフから「やりすぎ」と言われました。
「自覚はしていたけど、いざ言われるとへこむ。自分は一生懸命・必死にやっていただけだから」

それが正解だったのかどうか、今もわかりません。

患者さんに寄り添おうとするほど、感情が引き込まれていく。
「客観的であれ」という教科書の言葉は頭にあるけど、目の前の患者さんに対して感情が動かない看護師というのも、それはそれで違う気がします。

「今でも適切に対処できない」

これが正直なところです。15年目になっても、答えが出ていない。
患者さんにせかされると、今も焦ってしまうことがあります。

感情が動くこと自体は悪いことではないと思っています。
それがあるから「この患者さんに何かしたい」という動機が生まれる。
でも引きずられすぎると、自分も疲弊するし、患者さんへの関わりも歪んでくる。

そのバランスをどこに置くか。それは経験を重ねて考え続けるしかないんだと思います。

同じように感じている方がいたら、あなただけじゃないと伝えたいです。

まとめ ── 患者さんを一人の人として見るために

精神機能の各要素を知ることは、患者さんの状態を「分類」するためではなく、「目の前のこの人に今何が起きているか」を考えるための道具だと思っています。

教科書の定義は出発点として必要です。
でもそこで止まってしまうと、患者さんは定義に当てはまる症状を持つ存在になってしまいます。

「感情失禁という場面は臨床ではなかった」という自分の経験は、教科書が間違っているということではありません。
教科書通りにいかない患者さんが必ずいる。だから一人ひとりを見ることが大事、という話です。

精神機能の知識は、精神科看護師だけのものではありません。
私は現在、地域包括ケア病棟で働いています。
「認知症患者のBPSDやせん妄症状の出現にはいち早く察知対応できていると思う」
精神科で感情の変化に敏感になったことが、今の病棟でも活きていると感じます。

感情のアセスメントは、精神科・一般病棟を問わず、患者さんのそばで働く誰にとっても必要なスキルです。

過去の自分に声をかけるとしたら、「もっと肩を抜いて楽しく働いてな」と言いたいです。
うまくやれなかったこと、引きずられすぎたこと、葛藤したこと、全部あります。
でも、それも含めて考え続けてきたから今がある。

あなたも、目の前の患者さんのことを考え続けているうちに、きっと自分なりの見方が育っていきます。


関連記事 ── 精神機能シリーズ

精神機能とは?精神機能の1つ【意識】について
覚醒と認識の基盤。意識障害のアセスメント。

精神機能とは?精神機能の1つ【思考】について
妄想・思考のまとまりのなさをどう捉えるか。

精神機能とは?精神機能の1つ【知覚】について
幻覚・錯覚など、外界の刺激を受け取る機能の障害。

ハロのイラスト @salaryman_nurse
WRITTEN BY

ハロ看護師15年

ICU 1年 → 精神科身体合併症 12年 → 地域包括ケア

「向いてないなあ」と15年目の今も思いながら、不器用に、一生懸命、働いています。

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